目的:本調査では、2008年度日本クマネットワークの地域支援助成事業である長野県の「都会の人を巻き込んだ柿もぎ活動」の形成的評価(プログラムなどが開発・実施されている段階で行う評価)を実施した。評価を行った目的は、1.事業目標の達成度を測定する、2.第二次的な成果や予期しなかった影響を測定する、3.事業の長所と短所を特定する、4.事業効果の向上の可能性を探る、ことであった。
実施内容:
7月5日 サル柿大学スタッフへの聞き取り/参加者への聞き取り
7月8日・9日 下蔦木集落全戸への聞き取り/富士見町町役場職員への聞き取り
7月-8月 参加者へメールにて聞き取り/富士見町町役場農林係へメールにて聞き取り
下蔦木集落の住民への聞き取り調査
方法:2007年より「サル柿大学」の活動が行われている長野県下蔦木集落(国道の北側)の全戸(27戸)を訪問し、「サル柿大学」及びその活動に対する住民の意識に関する聞き取り調査を行った。
結果:27戸中13戸にて応対を頂き(回答率=48.1%)、その中の12戸より有効な回答を頂いた。
表1
質問内容 | はい | わからない | いいえ |
サル柿大学について知っている (n=12) | 83.3% | 0% | 16.7% |
サル柿大学の活動について肯定的な意見*を持っている(n=10) | 90% | 0% | 10% |
サル柿大学の活動によって地域が活性化してきている (n=8) | 75% | 25% | 0% |
サル柿大学の活動は地域に定着してきている(n=8) | 50% | 37% | 12.5% |
当活動の長所については
「都会の人々との交流ができる。今のところ集落のみんなで楽しくやっている。」(男性Aさん2009/7/8)
「都会の人に体験してもらって農家の人の励みになる。根付いてくれれば、過疎もなくなる。」(男性Fさん2009/7/8)といった回答があった。
当活動の短所については
「活性化という抽象的な目標ではこのままいくと空中分解してしまう。」(男性Aさん2009/7/8)
「実績に結び付いていないのではないか、という声もある。」(男性Bさん2009/7/8)といった回答を頂いた。
また、野生動物による農作物被害については、この問いに回答頂いた5戸全ての回答者が「野生動物による農作物被害は減ってきている。」と答えた。
更に、活動により地域に、そして住民に変化はあったかという質問に対しては、
「協力性が強まった。」(男性Cさん2009/7/8)
「いつもと同じメンバーが出ているが、最初は出ていない人も出るようになった。」(女性Aさん2009/7/8)といった回答があった。
ロジックモデルの作成:以上の結果と都会から来た活動の参加者(2人)、富士見町役場新しいまちづくり係(1人)、そして「サル柿大学」のスタッフ(2人)への聞き取り調査の結果を踏まえ、事業の計画と実施、及び評価を効果的に行うためにロジックモデルを作成した。
表2
資源 | 事業の活動 | 意図した成果 | |||
投資されたもの | 活動の内容 | 参加者 | 短期的目標 | 中期的目標 | 長期的目標 |
▪資金: 助成金等 ▪スタッフ: 2人/ 非常勤のインストラクター ▪協力: 富士見町町役場 ▪資源: 柿の木、 農作地等 | ▪柿もぎ活動 (8月28日、11月1日、8日) ▪電気さくの設置(7月12日) | ▪参加者:20-25人/各活動日 ▪参加者: 2人 | ▪野生動物による被害の減少 ▪野生動物問題に対する対処能力の向上 ▪ 活動に対する認識と理解の向上(83.3%の回答者が活動について知っていた) | ▪活動を通しての地域の活性化(75%の回答者が活動によって地域が活性化してきていると回答した) ▪活動の地域への定着(50%の回答者が活動が地域に定着してきていると回答した) | ▪住民が地域に愛着と誇りを感じるようになり、自主的に地域を守る活動を始める |
本調査を踏まえた上でのサル柿大学の活動に対する提言:1.目標の達成度を示す具体的な指標(インジケーター)の必要性、2.野生動物による被害の増減を測るための体系的・継続的な被害面積・金額等のモニタリングの必要性。
全戸での聞き取り調査を実施した下蔦木集落
農作業をしている住民にも聞き取りを行った